
いつものように恵比寿で地下鉄に乗り換えて、六本木にあるバイト先の本屋に行くつもりだった。だけど、地下鉄が止まっていたので、仕方なく渋谷からバスに乗ってバイトに行った。ある程度、予想はしていたものの、やはりそんな日の夜に好き好んで外出する人の姿はなく、不気味なぐらい街は静かだった。
普段なら終電後にピークを迎える店もびっくりするぐらい閑散としていて、仕方がないから店の本を座り読みしたり、バイト仲間と店の軒先でタバコを吸ったりしながら、営業終了の朝5時半まで時間をやり過ごした。
地下鉄に乗りたくないなと思ったけれど、まだバスは動いていない時間だし、歩いて帰るわけにもいかないから、ひとまず六本木駅へ向かった。すると、台風あとのように駅構内が水浸しで、その光景を目の当たりにして、初めて尋常じゃない恐怖と言い知れぬ怒りを覚えた。それが、1995年3月20日、地下鉄サリン事件のあった日から翌朝にかけての自分の記憶だ。
オイルショックの最中のベビーブームに生まれ、受験戦争を何とかくぐり抜けたものの、バブルの恩恵を授かることもなく、崩壊による就職氷河期。大学の友人たちと「オレたちは、あきらめの世代だな」、「あるいはX世代だぜ(笑)」なんて、自分たちを自虐的に揶揄していたし、誰かによって喪失されてしまったシステムの上で自分たちは生きてくもんだと思っていたけれど、1月に起きた未曾有の大震災と3月の卑劣極まりない大人災に、さすがに心がへし折られた。
その時、漠然と感じたのは、何となくこれから世界が変わってしまって、今まとは全く違う日常がはじまるということ。その日を境に、理不尽な暴力や形骸化したシステムに対して徹底抗戦しようと誓い、自分自身の中で、あきらめるより、抗いたいという気持ちが自然と強くなった。
あれから16年後の3月。また世界は大きく変わってしまった。そして、今のところまだ出口は見えない。だけど、今までと同じところには着地できないし、新しいフェーズへと移行しなければならないのは確かだ。だからこそ、自分はいま改めて1995年の自分に立ち戻りたいと思った。レイドバックではなく、とにかく前を向いて、新しい日常をこれから作っていくために。
そんなことを考えていた矢先、SPBSから「心に灯をともす一冊」を選書する動画コンテンツを作るので、参加して欲しいというオファーを頂いた。真っ先に思い浮かんだのが、村上春樹の『神のこどもたちはみな踊る』だった。きっとこれを読んでくれているハルキストのみなさんは知っていると思うけど、それは1999年の『新潮』に連作として発表された『地震のあとで』と題された連作の短編小説に、書き下ろしの「蜂蜜パイ」を加えて、2000年2月に刊行された短編小説集だ。そして、それは1995年1月に起こった阪神・淡路大震災と3月の地下鉄サリン事件の狭間の2月に、人は何を考え、どう行動したかということを題材にしている。
今回の地震が起こったあと、自分が真っ先に手に取ったのがこの本であり、最初にページを開いたのが、その中の最後の一遍である「蜂蜜パイ」だった。主人公である短編小説家の淳平は、地震の報道に怯え、眠れなくなった愛する女性の娘のために、即席の童話を作って彼女を寝かしつける。だけども、彼はその物語の終着点を見つけられない。村上さんはこの小説の解題として、「それはある意味では彼の生き方そのものを暗示している」と書いているけれど、その姿はまさしく今の自分であり、何かしらよすがに縋り付きたい思いで、再びページをめくったのだと思う。
その小説のラストの一文に、再び自分は励まされたのだけど、それをここで書くのは止めておこうと思う。それこそ、これからこの本を読もうと思っている人たちにとって、理不尽だし、暴力だと思うからだ。その代わりに村上さんがこの小説について書いた解題を引用させてもらいます。
“僕がここで書きたかったのは、僕自身の姿ではなく、むしろ「我々」の姿なのだ。バブル経済が破綻し、巨大な地震が街を破壊し、宗教団体が無意味で残忍な大量殺戮を行い、一時は輝かしかった戦後神話が音を立てて次々に崩壊していくように見える中で、どこかにあるはずの新しい価値を求めて静かに立ち上がらなくてはならない、我々自身の姿なのだ。我々は自分たちの物語を語り続けなくてはならないし、そこには我々を温め励ます「モラル」のようなものがなくてはならないのだ。それが僕の描きたかったことだった。”
ほんとは、その動画コンテンツでもっと上手く喋りたかったのだけれど、全然ダメダメで、結果としてグダグダなムービーになってしまいました。猛省。というか、喋るよりやっぱり書くほうが性に合ってるみたいです(苦笑)。ほんとに自分は何にも持っていないし、いつも誰かに何かを与えてもらっている人間ではあるけれど、こんな時ぐらいは誰かを励ます勇気を持てたらと、ただただ願うばかり。そんなわけで、まずは自分の身の丈にあったこと、日常を取り戻すことから始めようと思います。
この駄文を最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。そして、今回の震災でお亡くなりになられた方々にご冥福をお祈り申しあげるとともに、今まさに現地で戦っている被災者のみなさまにお見舞い申し上げます。
今の自分には、家族や友人が当たり前のように、そばにいてくれることがどれだけ幸せなことなのかということを噛みしめ、新しい日常を生きることしかできないけれど、メディアの端くれにいる人間として、いつの日かみなさんに心から楽しんでもらい、笑顔を作れるような雑誌や本を作れる人間になれるよう、力を蓄えたいと思っています。
追伸/グダグダな本紹介で、ほんとスイマセン。。
http://www.youtube.com/watch?v=FxN83wEtrEA
2011-03-25 00:31:00





